プレスリリース    2006/2.2
報道各位
フィリピン残留日本人(日系2世)のCarmen Ebeこと井手端(いでばた)和子(かずこ)さん(82歳)、Sanay Lumbayonこと井手端(いでばた)早苗(さなえ)さん(77)姉妹の就籍許可が下りました!
 本日、2006年2月2日、東京家庭裁判所により、上記2名(井手端姉妹)の就籍を許可する審判がおりました。これにより、井手端姉妹は申請どおり日本の戸籍を持つことができるようになりました。就籍許可が下りたのは、フィリピン残留日本人では初めてのことです。

 井手端姉妹は、平成16年8月6日、河合弘之、青木秀茂、町田弘香、望月賢司弁護士(さくら共同法律事務所)を申立人代理人とし、日本人父親・井手端仁市とフィリピン人母・エベ・ルンバヨンの長女として就籍する許可を求め、東京家庭裁判所に家事審判申立を行いました。(事件番号平成16年6822号及び事件番号平成16年6823号)同姉妹は、去年(平成17年)5月に来日し、5月30日に裁判官面接に臨みました。フィリピン、ダバオのトンカラン日本人尋常小学校の同級生3人(日本人)も駆けつけ、証言しました。

 就籍許可の報告は、本日、在フィリピン、ダバオの日系人会(PNJK)に伝えられました。日系人会会長が直接井手端姉妹の自宅を訪問し、告知する予定です。本人のコメントが入り次第、お知らせいたします。姉妹は、これから10日以内に、希望する本籍地(東京都千代田区)の役場にて就籍の手続きを行います。
司法記者クラブにて記者会見する河合弘之弁護士(PNLSC代表)と事務局・松本
2月2日4時半から司法記者クラブにて記者会見を開きました。
 記者会見資料希望の方は、事務局までご一報ください。
《この件に関する問合わせ先》 
特定非営利活動法人 フィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)
〒160-0004 新宿区四谷1-21 戸田ビル4階  Tel 03-3355-8861
Fax 03-3355-8862  E-mail info@pnlsc.com  HP http://www.pnlsc.com
担当:石井(090-9859-9135)・松本(080-1079-4650)

申立の背景

 明治以降、日本政府は移民を盛んに勧め、フィリピンには満州に次いで多くの日本人移民がいました。(3万人を超える)うち2万人はアバカ(フィリピン麻)の生産を生業として、ダバオ周辺に豊かな日本人社会をつくっており、多くはフィリピン人と結婚し家族をもうけ、現地社会にとけ込んで生活していました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、日本人社会は日本軍への協力を余儀なくされ、アメリカ軍やフィリピンゲリラと戦うことになりました。約二年間で日本軍は敗走し、混乱の中、日本人民間人も死亡したり、捕虜収容所行きとなったりし、後に日本へ強制送還されたのです。こうして日本人の血をひく子ども達がフィリピンに置き去りにされることになりました。戦後彼らは、日本軍の残虐行為の報復の対象となったため、日本人の血をひくことを隠し、証拠も捨てて暮らすしかなく、社会的地位が低く、生活も貧しい者が多いのが現状です。

申立人について

 申立人の父井手端仁市は、フィリピンダバオに渡り、アバカ農園で働きました。1922年、申立人の母エベ・ルンバヨンと部族方式(バゴボ族)で結婚しました。その後、申立人二人が出生しますが、病気にかかった仁市は治療のために戦前に帰国しています。最近見つかった仁市の戸籍によると、彼は日本人女性と再婚し、その後(昭和20年)仁市は死亡しています。残された申立人は戦争のため、日本人の子であることを隠して生活しており、戦後、仁市やその親戚との交流は一切ありませんでした。しかし、昨年、親族と連絡がとれ、井手端姉妹の存在を認める証言の提出とともに協力の申し出がありました。

国籍について

 申立人が生まれた当時施行されていた国籍法(明治32年3月16日法律第66号「旧国籍法」)の一条によれば、日本人の父より生まれた子は、日本国籍を持てることになっています。申立人は出生の際、両親が婚姻しており、法律上の父子関係が生じているため、日本国籍を取得していました。しかし、長く日本人であることを隠しフィリピン人として生活してきたため、父親との身分関係を証明するものがなく、日本国籍を確認することができませんでした。今回、父仁市の戸籍に登載するのではなく、就籍をする運びとなったのは、父仁市が帰国後、日本人と婚姻しており、数十年の歳月が過ぎた今、その婚姻を取り消すことが難しいとの事情があるためです。

*就籍・・・「本籍を有しない者は、家庭裁判所の許可を得て・・・就籍の手続きをしなければならない。」(戸籍法110条)

今回の申し立ての意義

 フィリピンには、1995年から現在まで、わかっているだけで約2500人の残留日本人(日系2世)が存在しています。フィリピン日系人リーガルサポートセンターでは、フィリピン現地の日系人会と共同で、彼らの身元判明のための調査を行っています。身元判明者も増えてはいますが、証拠書類や証言があるにもかかわらず一世の身元が判明しない方が約800人残っています。今回の就籍申し立てが認められれば、この方々への救済の道も開くことになります。